出会ったのは偶然か、それとも
   (香西とカサイ)



出会ったのは本当に偶然だったと思う。
でも、いつかはそうなると定められていたのかもしれない。


 フェイヨンの洞窟、死者が歩き回ると大聖堂へ相談のあった翌日。
まだアコライトだった香西は調査隊から外れ、いつものように一人で探索していた。
報告のあった通り、一階は動く死体と骨、蝙蝠であふれている。
とはいえ、動きは遅く
なりたてのアコライトでも引率のプリーストと何人かでPTを組んでいれば問題なく処理できる。
少々腐臭が気になるほかは。
転職間近に迫った者には、地下二階へ、との指示が出された。

「……えーと…」
入って最初に目にしたのは、一人の剣士だった。
一階にいた多くの死者とは違う、殺意の剥き出しなソルジャースケルトンを相手に必死に剣を振っている。
いつもであれば巻き込まれないよう素通りか、ブレスの一つでもかけて去るところなのだが…
この剣士、速さはそこそこのもののあまり敵に当たっていない。
段々と集まってくるのに対し、処理が追いつかない。
今倒れるか、ハエで逃げるかすれば距離的に数匹こちらに来るだろう。
逆に、それを気にして逃げられないのかと少し離れて様子を見ても逃げようとせず
黙々と回復剤を消費しながら攻撃している。
弓だけでも、とニューマを一つ真上に置くと、骨の群れの中から礼のつもりか手だけ挙がった。
「…」
目の前で死なれても後味が悪い…
そんなことを思いながら、とりあえず出来る支援をかける。
一人で動くことが多かったせいで、同レベルのアコライトに比べれば弱い支援であるが
何も無いよりはいいだろう。現に攻撃も当たるようになった…少しだけ。
このままでは剣士の回復剤も切れ、支援のSPも切れる。
「少し処理しても?」
「お願いしますっ」
控えめに声をかけると間髪いれずに応えが返ってきた。
同時に自分の支援を確認し、一番弱いヒールで一匹づつ引きつけて殴り倒していく。
ヒールもホーリーライトも、攻撃には少々弱い。
それならSPを消費して剣士へヒールが行かなくなるよりも
殴ったほうがいいとの判断だったが、やっとこちらの姿を確認できたらしい剣士は驚いていた。


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 数分後、転がった骨を山へと蹴飛ばして二人して同時にため息をつく。
倒しても一匹、また一匹と増えた死者の骨はやっと近くにいなくなり、
カラカラという音も聞こえず、どこかから聞こえる蝙蝠の鳴き声だけとなった。
この様子だと再び囲まれることにもなりそうで。
「いやー、本当に助かったよ、ありがとー」
壁にもたれてぺたりと座り込んでいた剣士が、やっと落ち着いたのか顔を上げて礼を言う。
今度は先ほどと逆で香西が驚く番だった。
青い髪のポニーテール、どこか気の抜けた顔をしているが…似ている。昔に亡くした父親と、微かに自分にも。
剣士はと言えば、だまったアコライトを不思議そうに見つめるだけで。
「そろそろ行けるかなと思ったんだけどね、まだ無理みたいだ。」
沈黙に機嫌を損ねたと思ったのか、剣士は苦笑しながら立ち上がった。
ぱたぱたと服をはたき、短剣を鞘へと納める。
「…あ、うん…って、無理だと思ったんならさっさと逃げたほうがいいよ?」
我に戻って気になったことを尋ねてみると、冒険者とは思えない返事が返ってきた。
「忘れちゃってさー」
「…は?」
何のことはない、行けるかと思って二階まで降りてきた。
が、どうやら装備は短剣…強化はしてあるようなものの、特化でも属性でもないスティレット。
こちらを気にして逃げない、のではなく、ただ単に逃げる手段が無かっただけ。
何か頭痛を感じて頭を抱えれば心配そうに覗かれる。瞳が青い。
「ごめん、迷惑かけちゃったよね」
「いや、うん……ねぇ、名前は?」
予感がした。似すぎている…いや、それ以上に間抜けだが。
この様子だと一度や二度のことじゃないだろう。
それを確認したくてぶっきらぼうに尋ねた。
「オレ? カサイだけど…」
あぁ、やっぱり…と思わず笑ってしまう。
「ははは……まぢで?」
「まぢで」
何がおかしいのか分からないのか、怪訝そうにこちらを見ている。
ずっと前の記憶を辿っても、彼には何のことかは分からないのだろう。
「まぁいいや。プロンテラまでのポタ出すから、大人しく帰りな?」
言うが早いか、その足元に魔方陣が現れる。
これ以上話していたら余計なことまで言いそうな気がして、強制的に帰すことにした。
「え、ちょ…アコさんの名前は…っ?」
「…ひみつー」
聞こえたか分からないが、剣士の姿は光と共にその場から消えた。


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「…まさかこんなところで会うとはなぁ…」
世間は狭い。
帰還指示にしたがってもと来た道を歩きながら、先ほどの剣士のことを思い出す。
同じ目の色、髪型、髪の色は父親譲りの青。
勘のいい人間なら、二人が並んだだけで気付くだろう。

 数は減っていたが相変わらず歩み寄ってくるゾンビを、今度はヒールで葬りながら出口へ。
数時間の探索だったとはいえ、洞窟内の淀んだ空気から開放されて気持ちがいい。
傾きかけた太陽の眩しさに目を細めて大きく背伸びをしていると
先に地上へ戻ったPTがワープポータルを出して手招きしているのが見えて急いだ。
「遅い、ちびすけ」
「ちびって言うな」
緑の髪のプリーストに背を叩かれて、その勢いのまま光に飛び乗る。
ふと、先ほどの剣士のほうが自分より背が高かったことを思い出して落ち込みながら。



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あとがきっぽいもの?

いつか書こうとは思っていた兄弟再会のSS。
過去設定を知らないと分からない部分が多そうですが、
その辺は少しづつ書けたらなと思うので、
明かされてから「あぁ、なるほど」と思ってください(爆
この時点ではまだ、剣士のSTRよりアコのSTRの方が高いです。
…アマツ実装前ですし orz

ちなみに最後の足元強制ワープポータルは現在できませんb
…便利だったんですけどねぇ…(’’


2007/12/5